琴川のすげ笠|男鹿市五里合
- 2011.11.10 Thursday
- つむぐ もの
先週、男鹿市五里合の琴川に行ってきました。以前ご紹介した珈音の佐藤さんのところへ。佐藤さんは今年度秋田県が公募していた「秋田型コミュニティビジネス起業支援事業」に、以前から活動している『琴川のすげ笠』で応募し、この夏に採択されました。この地域で、人の手を介して伝わってきた技術であり文化であり地域固有の資産でもある『琴川のすげ笠』を次世代へ継承すべく、地域の人たちや仲間と共に活動しています。
上記支援事業の採択団体(全9団体)の支援を主業務とする県からの委託業務を、秋田県内の民間企業やNPO法人、社会活動団体など様々な立場のメンバーで構成される組織「CBネットワークあきた」が受託していて、メンバーの一人であるわたしは、『琴川のすげ笠』を含む4団体のサポートを担当しています。そんなこともあって、佐藤さんとは定期的に連絡を取り合い、事業の進捗状況や課題などをシェアしてきました。
佐藤さんたちの今年度の目標の一つが、すげ笠づくりに必要な「すげ」の栽培に着手すること。「すげ」はこの地域に自生しているものの、すげ笠をつくり、販売していく、また定期的に琴川すげ笠伝承塾や出前講座などを行っていくためには、安定した量と質を担保しなくてはなりません。そこで、この地域の大きな課題の一つでもある耕作放棄地を水田として再生させ、自生している「すげ」をそこに移植しようと計画を立て準備してきました。この日はちょうどその実行日ということでお邪魔しました。
写真の下の方に写っている稲のようなものが「すげ」です。ここ琴川では水田のまわりの湿地帯などに多く自生しています。自生しているということは、当然のことながら肥料も農薬も必要ありません。そんなこともあって、佐藤さんから「土や微生物を含む生き物の力を出来るだけ活かして栽培したい」という要望を聞いていたので、この日、同世代の友人であり尊敬する農家『Farm Garden 黄昏』の菊地晃生さんをお連れして、助言や指導、さらには作業まで手伝っていただきました(いただいてしまいました…、菊地くんありがとう)。
菊地さんは、秋田市と男鹿市の間にある潟上市飯田川というところで「不耕起移植栽培による無農薬・無化学肥料の稲づくり」を実践している若手専業農家で、3年前に秋田に戻り農業を始めました。以前は北海道の設計事務所で都市公園計画やランドスケープデザインに携わっていた経歴の持ち主でもあります。
写真手前(右)が佐藤さん、奥(左)が菊地さん。新たに「すげ」を植える場所から車で5分ほど行ったところに、緩やかな谷間があって、そこにもかつて水田だったたくさんの耕作放棄地があります。山と平地の境に沿うように、森から湧き出たままの、一切生活用水の混じっていない自然の水が緩やかに流れていて、大量の「すげ」が気持ちよさそうに自生しています。移植するための「すげ」はここから採取します。しかしながら、ご覧の通り、これが大変な作業でした。
「移植」するには根を残して採取する必要があり、稲刈りのように鎌でバサバサというわけにはいきません。結構しっかり根も張っているうえ、写真のように長いままだと植える際に邪魔になってしまうため、ある程度短く刈りながら根は残すという手間のかかる作業を地道に繰り返します。この日集まってくれていた仲間は佐藤さんを含めて男性5名でしたが、日頃から農作業に携わってる人がいないということもあり、だいぶ苦戦している様子でした。菊地さんが、到着してから少し手伝ってくれましたが、やはり手際の良さは違いますね。笑
森から湧き出た天然の水が緩やかに流れていました。
オニヤンマと思われるヤゴ(幼虫)を発見。その他にも生き物たちがたくさん。
「すげ」の採取を午前中で終え、佐藤さんのご自宅で昼ご飯を食べながら、休憩兼作戦会議。佐藤さんのご家族がつくってくれた料理がとても美味しくて、11月にしては暖かい日差しを浴びながら、みんなで地べたに座って食べた昼ご飯は、何とも言えない格別なものでした。
充実した昼食の時間を過ごして、午後からはいよいよ「すげ」植え。つい先日まで耕作放棄地だった移植場所へと軽トラを連ねてみんなで移動。あたり一面が耕作放棄地という現実に直面しながら、写真のような道なき道を分け入っていきます。
舗装された道路から軽トラで1分ほど入った先からは、歩いて進むことしかできません。午前中に採取した「すげ」をみんなで運びながら、耕作放棄地に生えた背の高い雑草の間をぬって進むことさらに1分。雑草を刈り取り、土を耕し、水を引き入れた場所が現れます。
午前中に採取した「すげ」。植えやすいように短く刈り取ってあります。
束になっているものを株分けしながら、ひとつひとつ手で植えていきます。
一番左、小さく見えるのが菊地さん。さすがプロは早い。
ここ秋田では秋に田植えをすることはありません。ましてや稲刈り後のこの時期に田植えをするのは、農家の菊地さんも含めてみんな初めてのことでしたが、秋の田植えも良いものですね。暖かいとはいえ、11月ですから気温は15度前後。それでもみんな心地よい汗を流しながら、すげ植えは順調に進みました。
そこかしこに自生している「すげ」ですが、昔はすげ笠づくりのために、このように栽培していたそうです。今回もそのノウハウを地元の長老(と佐藤さんたちは呼んでいました。笑)やその世代の方々に聞きながら、準備を進めてきたとのことですが、さすがにみなさん高齢で、現場まで来て指導したり手伝ったりするのは難しいのだとか。順調に育てば、来年の7月か8月には刈り取れる予定ですが、1年目の田からは良い「すげ」が育ちにくいという話もあり、その時になってみないとわからない部分も多いのが、自然を相手にすることの難しいところです。
「すげ」を採取した場所も、新たに植えた場所も、山から湧き出た水がそのまま流れてくる素晴らしい環境。ただ、これまで、そして現在も行政が進めているような機械化を前提とした農業にとっては、いずれも不便な場所。高齢化の問題もあいまって、こういう場所から耕作放棄地になっていくのが現状です。「良い水がある、美味しいお米をつくれる場所から、こうなっていってしまうんだね。」この日、菊地さんと話したこの言葉が、チクチクした感覚と共に、いまも頭と胸を行き来しています。
ただ、ここには希望がある。佐藤さんたちはそう思わせてくれます。いまは決して多くはないけど、一緒に汗を流してくれる仲間がいて、そして自然というかけがえのない資産がある。一帯が耕作放棄地になっているということは、一帯を新たにやり直すことが出来るということ。この日の作業を終えたみんなが、きっとそんなポジティブな気持ちだったと思います。
作業を終えたあと、みんなで記念に写真を撮りました。我ながらとても素敵な写真が撮れたと思っています。右から順に、今年9月から地域おこし協力隊としてこの琴川地区にきている柴田さん(もうすっかり馴染んでいます。笑)、このプロジェクトの中心人物である佐藤毅さん、「不耕起移植栽培による無農薬・無化学肥料の稲づくり」を実践している農家『Farm Garden 黄昏』の菊地晃生さん、ここ琴川集落の(同じく)佐藤さん、一番左が大潟村出身の画家で有機農家の父を持つ相馬大作さん。午前中の「すげ」の採取を手伝ってくれていた男鹿市在住の松橋さんは、昼にいったん抜けられて、戻って合流したのはなんと撮影の数分後・・・。松橋さんはこの前日も「すげ」の採取を手伝っていたり、琴川すげ笠伝承塾の開催にも欠かせない、プロジェクトの中心人物の一人です。(やっぱり後日別撮りして、写真右上に入れないとですね…笑)
琴川のすげ笠については、また経過などお知らせしていきたいと思っています。ぜひぜひお楽しみに。そしてすげ笠が出来たときには、応援の意味も込めてぜひお求めいただけたら嬉しいです。
見て下さい。このみんなの表情。何も説明はいりませんよね。笑
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